「バレル150ドル時代」の悪夢
2008/05/03
ニューヨーク原油先物価格は2008年1月2日にはじめて1バレル100ドルに到達した。その後、3月12日にはバレル110ドルを突破しさらに120ドルも目前の状況にある。世界の原油価格の主導権を握るニューヨーク原油先物市場は、さらなる原油価格上昇期待の熱気に溢れている。
第二次石油ショック時の1980年に記録した1バレル40ドルは先進国における27年間の消費者物価上昇率を勘案すると1バレル104ドルに相当する。現在の1バレル110ドル台というのは実質価値で石油ショック時を上回り、石油専門家にとって未知の領域に入っている。
しかし、石油を巡る国際政治・経済環境は大きく変化しており従来の常識はもはや通用しない。
原油を巡る市場環境は2003年3月のイラク戦争開始を契機としている。
石油を消費する主要な担い手は石油ショック時の7億人から、中国、インドをはじめとする新興経済発展諸国を含めた30億人へと膨張した。先進国の国民は石油ショック時には既に豊かな生活を獲得しており原油価格高騰に対する省エネルギーが比較的容易であった。しかし、新たに加わった20億人余りの新興国の国民はこれから豊かになろうとしている。そうした生活向上意欲の強い国民に省エネを実行させることは難しい。
エネルギー消費の増加という観点から見るならば、中国、インドの鉄鋼需要と鉄鋼企業の発展は重要なポイントである。世界の粗鋼生産は第一次石油ショックのあった1973年には7億トンに達し、以後30年間にわたって変化はなかった。しかし、2002年から様相が一変した。年7000トンの割合で増加し始め07年には12億トンに達し、15年には粗鋼生産は16億トンに達する。このまま拡大していけば原油価格の大きな高騰要因となる。
では、原油価格の上昇に対して供給面はどうであろうか。
価格が上昇しているにもかかわらず生産量が増えないという異常な事態がある。
これは石油を埋蔵する国は一部の産油国に遍在し産油国がいくら膨大な超過利潤を獲得していても新規参入による価格破壊がないという特殊性によるものである。しかも産油国のほとんどはイスラム教国であり、アングロサクソン流の市場合理的には行動せず原油価格が上昇すると同じ生産量でも石油収入が増加することから、自国の資源を守ろうと、逆に増産のインセンティブを失う。いわゆる、自国資源の囲い込み、資源ナショナリズムの高揚である。
また、石油市場には欧米の経済社会では違法とされるカルテルが存在する。
ベネズエラのチャベス大統領、イランのアハマドネジャド大統領が就任してから、強烈なナショナリズムのもと目先の売り上げ増を我慢しても原油生産を絞るようになり、最先端の技術を持つ欧米石油メジャーを排斥して、OPECをを本当のカルテル組織に再構築した。OPECの目標価格は今世紀初頭の25ドルから100ドルに引き上げられたのである。
石油という商品はもともと価格が上昇しても需要が急激に減少しにくい財である。
石油が主として自動車やジェット機、船舶等の輸送用燃料として利用されているために、石油以外への代替がきかないからである。したがって、現在の原油価格の高騰に対応して、実際に需要が減少し、価格が下落するのにはさらに10年程度の時間がかかるであろうとのことである。
その理由に、重油などの重い油からガソリンやジェット燃料などの軽い油への需要構造の変化、すなわち白油化の進展がある。日本を例にとると、73年の石油消費の56%は重油であった。発電用燃料は石炭、天然ガス、原子力への代替が容易である。しかし、現在では重油が占める割合は22%しかない。その他は、石油以外への代替がきかないガソリン、ジェット燃料、軽油、石油化学製品の原料となるナフサである。そのために、簡単に石油以外のエネルギーに転換することは70年代の石油ショック時よりもはるかに難しくなっている。
米国経済のリセッションによる中国経済、インド経済のクラッシュを予想するむきもある。しかし、中国、インドは市場経済とはいうものの、強力な国家管理のもとでインフラ整備、自動車産業、鉄鋼産業の拡大をはかり、高度経済成長路線を続けている。
現在のまま新興国の膨張が続くならば、原油価格150ドル時代に直面する事態さえも覚悟する必要があるのではないだろうか。


















