
G7後の株式相場ー公的資金注入先催促か?
2008/10/11
ワシントンで開催された先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)は10日夕(日本時間11日朝)、米国発の金融危機克服に向けた「行動計画」をまとめて閉幕した。行動計画は「現状の状況は緊急かつ例外的な行動を必要としている」と指摘。家計や企業への貸し出しを継続できるよう必要に応じ公的資金で金融機関の資本を増強すると明記し、金融市場の混乱収拾にあらゆる手段を取ると表明した。中川昭一財務・金融相は終了後の記者会見で、公的資金注入に関し「近々各国で前進があると信じている」と強調した。
しかしながら、このG7では残念ながら市場が期待した答えが出なかったという印象だ。市場は日本が個別に公的資金を注入した2003年をイメージしている一方、米当局の行動は日本の1998年の一斉注入の段階にとどまっている。英国での公的資金注入の発表にも市場の反応が冷たかったのは、英国も日本の1998年の措置をしたからだ。10日米株市場でシティとJPモルガンの株価が切り返した半面、モルガンスタンレーが続落したのは、市場が公的資金注入の必要がある金融機関を探し始めたようで気がかりだ。米当局は早く注入先を明らかにせよという市場の催促なのではないか。G7が終わり、米政府は様々な方面にヒアリングをするだろう。反応が思わしくないと判断すれば、週明けアジア市場が開く前に何か踏み込んだ政策を出してくる可能性もある。週明けの13日(月)NYSEの動きに注目が集まる。引き続く東京市場での日経平均ダウにも同様である。経済恐慌に至るか否かの大きな転換点が近づいている。
激変する金融業界のキーワード、「安定」と「買収」が勝組?
2008/09/27
米金融機関の破たん・救済劇で金融業界が激変するなか、一部の金融機関が勝ち組として浮上してきた。
野村ホールディングス、英バークレイズ、米バンク・オブ・アメリカは「1世代に1度」の破格の安値で経営の悪化した金融機関の事業を買収。
英HSBC、米JPモルガンなども、豊富な資本力や事業展開で勝ち組となる潜在力を備えている。
「破格の安値で巨額の資産を買収した金融機関が真の勝者だ」と指摘する声がマーケットでは一般的だろう。
バークレイズは、リーマン・ブラザーズの米投資銀行業務を買収した。買収条件は妥当であり、米投資銀行業務の増強を目指してきたバークレイズにとって「大きな弾みになる」と分析されている。
バンク・オブ・アメリカは、米メリルリンチを500億ドルで買収した。信用収縮の終息後に振り返ったとき、極めて優れた決断だったと評価される可能性があるという。
メリルの資産をすべて活用できるか、すべてを統合できるかがカギとなり、ただ2、3年後に振り返ったとき、素晴らしい買収だったと言える可能性がある」と見られている。
野村ホールディングもリーマンのアジア・欧州投資銀行業務を買収。
ベアー・スターンズを救済買収したJPモルガンは、市場が回復すれば投資銀行収入が拡大するとみている。
ただ過去の例をみると、投資銀行の買収には常に企業文化の違いという問題がつきまとう。
今回は、雇用情勢の悪化がこうした問題を解消する要因になる可能性があるが、現在の厳しい市場環境を考えれば、統合の成果が出るまで数年かかる可能性もある。
市場の回復が遅れれば、浮き沈みの激しい金融市場への依存度の低い金融機関が、勝ち組として浮上する可能性がある。
ドイツ銀行は、ドイツポスト傘下のポストバンクを事実上買収した。安値での買収とは言えないが、買収で国内に圧倒的なリテール網を築くことで資本市場への依存を減らし、市場環境の悪化に備えることができる。
英銀行大手ロイズTSBは、住宅金融最大手HBOSを買収。信用危機の前であれば、決して実現できなかった買収だ。今回はHBOSの救済買収ということで競争法の適用を免除されており、買収の結果、大規模なコスト削減に加え、国内住宅ローン、当座預金、貯蓄預金市場で圧倒的なシェアを獲得できる。
「今の条件で買収契約が実行され、将来的に競争法上の懸念が生じなければ、素晴らしい買収だったと言える」と受け止められている。
アジアでは、HSBCが韓国外換銀行の買収を撤回したが、韓国の国民銀行が外換銀行の買収に名乗りを挙げる可能性がある。
事業買収に頼らず勝ち組になる道も存在する。着実な経営で市場シェアを伸ばし、投資家の信頼を獲得するという戦略だ。
アナリストによると、HSBC、JPモルガン、クレディ・スイスなどは、利益率の改善で市場シェアを伸ばせる可能性があり、事業を買収した金融機関よりも少ないリスクで収益を拡大できる潜在力があるという。
「現在の環境では、顧客が資本力のある総合金融機関に取引を移す可能性がある」と指摘する向きが強い。
JPモルガンやスペインのサンタンデールなど、資本力のある金融機関が、今後買収を進める可能性もある。
安全志向の経営から大きく外れておらず、今後事業を拡大する可能性がある金融機関には、仏BNPパリバ、米ウェルズ・ファーゴ、大和証券グループなどが挙げられるという。
ただ、こうした多くの潜在的な勝ち組も、失地回復を図る必要がある。
FTSE国際銀行株価指数は1年間で約3割急落している。
HSBCとJPモルガンの株価下落率はそれぞれ3%、5%にとどまっているが、バークレイズやバンク・オブ・アメリカは、1年前の株価水準を回復するにはあと30%以上の株価上昇が必要だ。
いずれにしても、今後まだまだ大きな買収、再編等があるのは間違いない。

麻生新政権で旧来型内需相場のシナリオか?
2008/09/25
麻生政権の誕生によって、株式市場では建設業やガラス土石といった旧来型・内需関連株を軸とした景気浮揚シリオが浮上している。麻生新首相は景気対策に注力する方針をすでに明らかにしており、積極財政派を自認する麻生氏の政治姿勢から、公共事業に目を向けるとの見方が株式市場で出ているためだ。ただ、経済政策の比重が道路やダムの建設といった旧来型の景気浮策に傾いた場合、過去の経緯からその経済効果を疑問視する声が多く、内外の市場参加者から「失われた10年」の前に戻ったとの印象を持たれれば、日本株のイメージを損なうリスクが生じるとみるマーケット関係者が少なくない。
新政権が誕生した際、株式市場では「政策買い」と称して、その対策を先取りする動きが活発化する。しかし、今回に関しては、麻生氏が総裁選に立候補するたびに動意づく、まんだらけなどアニメ・コンテンツ関連株が総裁選と前後して買われた程度で、そのほかに目立った動きは出ていない。
市場では「リーマンショックなど金融問題で新政権に対する関心が薄れる一方、誕生後すぐに解散・総選挙、与党敗北で下野、といった可能性があることも、政策買いが盛り上がらない背景になる」との指摘もあり、金融問題にマーケットの関心が集中している状況だ。
その一方で、直近の相場は金融問題とともに内外の景況感悪化も下げ要因となっているだけに「景気浮揚という観点から、麻生政権が実施しようとする経済対策を無視することはできない。解散・総選挙といった流動的な要素もあるが、政策が実現した場合の効果を計る作業が必要になるという。
そうした中で、浮上しているのが公共事業など旧来型内需株の相場シナリオだ。市場関係者によると「麻生新首相の政策ブレーンなどを考慮すれば、公共事業に比重を置いた対策が出るとの思惑も出てくる」という。セメント会社の経営者だった麻生新首相はかねて、積極財政路線を提唱しており、そこから旧来型の対策にも目を向けた経済政策にかじを切るとの見方が生じやすい。だが、市場ではこのシナリオを歓迎する雰囲気が感じられないどころか、アレルギー反応を示す向きも多い。「金融問題で優位に立つ日本株が売られることはないとみられるが、旧来型対策は財政悪化、改革の遅れをもたらすため、長い目でみた場合、不安を残すことになる」と指摘する声もある。
某テクニカルアナリストは「市場が経済対策に関して時代に逆行すると感じ取るようになった場合、建設株やセメント株などが物色される可能性が高くなる。しかし、これまで改革の進展で、産業界の構造変化で立ち直った日本株全体のイメージを損なうリスクが生じそうだ」と分析していた。
某ストラテジストは、小渕恵三政権が実施した1998年11月の超大型経済対策は、古い体質の政策と言われながらも株価急騰の起点になった点に着目し「麻生政権は当面の景気対策を重視する結果、株式市場にポジティブなインパクトをもたらす可能性が高い」と指摘する。
しかし、他方で「財政の拡張で経済の新陳代謝が遅れる。少子高齢化、財政問題などを考慮すれば、景気対策の効果は1年程度が限界と考えられる。弱者の淘汰、新陳代謝の遅れで持続的な成長に支障が生じるリスクがある」という。
「旧来型の対策は、長い目でみた停滞、財政悪化など招き、一時的な効果にとどまる可能性がある」と見るのが妥当なところではなかろうか。

リーマンの破綻余波が日本の不動産に及ぶ
2008/09/19
「投資銀行という業種はなくなり、商業銀行しか存在しなくなるのではないか。残ったとしてもゴールドマン・サックスなど上位だけだろう」。8月下旬、日本で長年、投資銀行業界で働いていた人物はささやいた。その予想は、現実のものになり始めている。
米国の大手投資銀行の上位5社のうち、5位の米ベアー・スターンズが今年3月に事実上の経営破綻に見舞われ、JPモルガン・チェースに買収された。それに続いて4位の米リーマン・ブラザーズ・ホールディングスがチャプター11(連邦破産法11条)の適用を申請。さらに米大手銀行バンク・オブ・アメリカ(バンカメ)が3位のメリルリンチを買収すると発表。上位5社のうち3社が姿を消す事態になった。
実は今年6月下旬の段階で米ニューヨークのウォール街に拠点のある有力シンクタンクの幹部は、リーマン・ブラザーズなど上位の投資銀行の経営破綻はもう起きないだろう、という楽観的な見通しを述べていた。
それまでリーマン・ブラザーズの株は、2回ほど売り浴びせられた時期があった。だが株価急落の際に「米財務省の幹部がリーマン・ブラザーズの経営はしっかりとしているという異例のコメントを出したことがあったため、破綻回避は政治的な問題」と見られていたからだ。
ウォール街では、どちらかというとベアー・スターンズは一匹狼のような存在だったという。一方のリーマン・ブラザーズは、他の大手投資銀行と密接な関係があり、政治的にも破綻させられないというわけだ。だが時間が経過するにつれ、リーマン・ブラザーズとの取引縮小が進んで、むしろ破綻させやすくなったという指摘もある。
リーマン・ブラザーズは150年近くの歴史を誇る金融機関であるものの、1980年代に内紛や身売りを経て、98年のロシア危機の際に業務縮小を余儀なくされていた。しかし最近は、69年に入社して以来リーマン・ブラザーズ一筋というリチャード・ファルド会長兼CEO(最高経営責任者)の手腕で業績は上向き、株価も2006年4月に150ドルを超えた。
日本法人であるリーマン・ブラザーズ証券も一時は人材が流出したが、東京支店在日代表に米系のモルガン・スタンレー・ジャパンに在籍していた桂木明夫氏を起用して立て直した。
話題の案件もいくつも手がけた。例えば、2005年1月にライブドアがニッポン放送の買収騒動を仕掛けた際に、ライブドアが発行した800億円のMSCB(転換価格修正条項付転換社債)を引き受けて注目を浴びた。また、2005年4月にアステラ製薬として発足した旧山之内製薬と旧藤沢薬品工業の合併では、藤沢薬品のフィナンシャルアドバイザーを務めるなど、日本企業が関わるM&Aのアドバイザリーランキングで上位に並んだこともあった。
米国では、次のリーマン・ブラザーズはどこかという疑心暗鬼が広がり、日本でも一時リーマン・ブラザーズに対する債権を保有する金融機関の株価が急落した。
影響は株価にとどまらず、さらに広がる可能性がある。その余波が襲うと見られている代表格の市場が、証券化ビジネスによって急拡大した日本の不動産関連市場。米国の不動産に連動して、日本の不動産の価格も今後下がる可能性が高い。
そもそも米国のサブプライム問題は、直接的には日本と関係はない。だがつい昨年まで、外資系の投資銀行は、積極的に不動産開発会社などにノンリコースローンを増やしていた。
ノンリコースローンとは、銀行などが融資対象の物件が生み出すキャッシュフローへの評価をもとに購入資金を貸し出すもの。債務の返済が不可能になった場合の担保は、その物件に限られるため、借り手は他の資産を売ってまで返済を迫られることはないメリットがある。
業界では、昨年夏頃には外資系投資銀行が手がけたノンリコースローンの金額が、国内全体の5割に急増していたと見られている。外資系投資銀行がノンリコースローンのシェアを高めた背景は、国内の銀行とは不動産に対する見方に違いがあったからだ。
国内の銀行は、デベロッパーと呼ばれる不動産開発会社などと取引関係を築いてローンの返済期日まで貸出債権を持ち続ける場合が多い。だが外資系の投資銀行は、基本的にローンの貸出債権を第三者に転売するという前提で不動産を評価してきた。
金融関係者によると、例えば、ある外資系投資銀行がローンを付けたマンション物件は、駅から徒歩数分という立地の建物だった。しかし、その近くには風俗街があったために、かつてなら日本の銀行はローンを出しにくかった。そんな物件にも、外資系の金融機関は積極的に貸していた。
中には高層マンションなのに、大通りに接した面は狭くて車も入れず、周囲の住環境とも全くそぐわない細長い物件もあったという。本来なら不動産開発に必要な周囲の土地を取得できないまま建てられたような物件に対しても、外資系の投資銀行は次々と資金をつけていた。
それができたのは、サブプライムローンと同じように不動産の流動化でリスクから逃避する仕組みを不動産開発会社と外資系投資銀行が作り上げてきたからだ。
その仕組みは、私募によるSPC(特別目的会社)を活用するものだ。まず不動産開発会社は開発型と呼ばれるSPCを設立する。その開発型SPCに、不動産開発会社は自らの資金で取得した土地をまとめて転売し、利益を得る。
開発型SPCは、その土地にマンションなどの物件を建設して、完成後に利益を得る手段として、外資系投資銀行などが出資する不動産投資ファンドなどに転売する。
不動産開発会社はSPCから配当などの形で利益が入るうえに、転売の段階でも利益を上げられる仕組みを作り上げていた。その利益でさらに新規の開発案件を仕込んでは、また転売して利益を積み上げてきた。
こうした転売による利益創出モデルが、サブプライム問題によって崩れてしまった。というのも開発した物件の売却先である不動産ファンドに、外資系投資銀行がローンを出せなくなったからだ。
開発型のSPCが物件の転売をできなくなると、資金の回収もできない。開発型SPCが不動産を取得して物件を建てるために調達した資金は、返済順位に応じてデットとエクイティに分けられる。エクイティは全体の5%程度で不動産開発会社が主に出資している。残りの95%はデットで、これはリスクに応じてメザニンとノンリコースローンに分かれる。
ノンリコースローンは全体の70%程度で、ローンの出し手は内外の金融機関。残ったメザニンは全体の25%程度を占め、主に物件の建築に関わる建設会社が出す格好になっているという。
このノンリコースローンの返済期限は、マンションなどの建物の工事期間に当たる1〜2年と短い。そのため、開発型SPCは不動産ファンドなどに転売できずに資金を回収できないと、ローンの借り換えをするか、仕入れ値より安値で売却して返済資金を確保するしかない。不動産開発会社も開発型SPCに投資しているため、安値での売却だと自らの投資資金を回収できず、財務が傷むという構造だ。
転売モデルの破綻は不動産開発会社だけではなく、建設会社にも影響を与える。建設代金の回収ができなくなる恐れがあるからだ。建設会社は、物件の完成に合わせて不動産開発会社から工事代金を受け取る。通常は、工事の進行に合わせて着工日に代金の10%、建設途中に10%を受け取り、建物の完成時に残りを受け取るといった契約を結ぶ。
そのため完成後に開発型SPCが不動産ファンドなどに転売できなければ、建設会社は代金を受け取れない場合もある。代金を受け取るまで建設会社は、人件費や鉄骨代などを先払いしなければならない。
また先に述べたように、建設会社も開発型SPCに投資している。エクイティ部分の保有者である不動産開発会社が売却する権利を放棄すると、物件を売却処分する権利はメザニン保有者である建設会社の元に渡る。
その物件がエクイティ分を除いた価格である95%よりも高く売れれば問題はない。しかし関係者によると、現在はメザニンを保有する建設会社が売ろうとしても売れない事態が出始めていると見られる。その混乱が、今年9月からもっと広がる恐れがあるというのだ。
不動産価格のピークとされる2007年春頃に不動産開発会社が土地を手に入れて、昨年10月頃から建物を作り始めようとしていた建設会社は、改正建築基準法によって建築確認許可をもらうのが遅れたうえに、鉄骨など資材の高騰の影響も被ってきた。いわば不動産価格が高騰した時期に手がけた物件を下落時に完成して売りに出さなければならない。こうして資金繰りの苦しい建設会社は、市況変動の波をまともに受けて危機的な状況に追い込まれてしまう。
とりわけ公共事業投資の削減の影響で売り上げが欲しい地方の建設会社は、都心のマンション建設などに新規参入したばかりのところが少なくない。しかも傘下に多くの中小の工務店を抱えている。こうした建設会社が経営が悪化すれば、引当金を積むのを余儀なくされる地方の金融機関が増えて、ひいては地方経済をいっそう冷え込ませかねない。
こうした私募SPCの市場は20兆円規模と推測されている。すでに物件が不動産ファンドなどに転売済みであれば、ファンドへのノンリコースローンの返済期限は比較的長いため、賃貸収入でキャッシュフローが得られるので、すぐには問題とはならない。だが開発型のSPCに仕掛かり品として滞留している物件は、売るめどが立たなくなる恐れがある。
1990年代のバブル崩壊時には約120兆円の不良債権が出たとされる。それに比べ今回のサブプライム問題に端を発した不動産危機は、それほど大きな規模ではないという見方もある。だが規模は小さくとも、とりわけ地方に影響を与えてしまう可能性がある。そして何よりも、その余波が広がるのは、まだこれからなのだ。
リーマンブラザーズの破綻はこれからまだまだ各方面に広がるが、特に不動産関連には大きな懸念を感じる次第である。

今の投資銀行はもはやなくなる?
2008/09/18
今年に入りベアー・スターンズとリーマン・ブラザーズが破綻し、メリルリンチが破綻寸前ギリギリセーフでバンク・オブ・アメリカ(BOA)に吸収合併された。
米国の独立系大手投資銀行で残るのは、とうとうゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーの2つになってしまった。と言っても、モルガン・スタンレーは、いったんディーン・ウィッター・ディスカバリーに買収されている。また本日の情報ではHSBCが買収するのでゃないかというのも出てきている。米国の投資銀行に未来はあるのだろうか。
歴史を振り返ると、かつてロンドンでは「マーチャントバンク」と呼ばれる小型の投資銀行が、その知恵とネットワークで、全盛を極めていた。SGウォーバーグ、J・ヘンリー・シュローダー、ベアリング・ブラザーズ、クライオート・ベンソンなどが栄華を極めていた。だが、英国で起きたビッグバンとともに、すべてなくなった。所謂、ウインブルドン化した。
米国のホールセール専門の商業銀行には、かつてコンチネンタル・イリノイ、バンカーズ・トラスト、モルガン・ギャランティー・トラストがあった。コンチネンタルは破綻し、残りの2つはそれぞれドイツ銀行と、チェース・マンハッタン銀行(その元はケミカル銀行。現在はJPモルガン・チェース)に買収されてなくなった。
こうして見ると、投資銀行とは消滅していくものであり、今後のウォール街がかつてのような姿に戻ることは決してないだろうと思える。投資銀行はなぜ、消えていく運命にはまったのか。今回のケースから言えることは、比較的単純だ。
「リスクを取りすぎ、リスクをマネージできなかった」からである。信用リスクも取りすぎたし、資金調達リスク(アベイラビリティーリスク)も取りすぎた。それではなぜそんなにリスクを取り、またリスクをマネージできなかったのだろうか。
他人の金をノンリコースで使える時、投資銀行家とは無限にリスクを取るものだ。なぜなら「今日の利益は僕のもの」(高いボーナスで持ち出すことができる)、一方「明日の損は君のもの」だからである。
バランスシートが腐ろうと、資金調達が続かなくてほったらかしにしようと、それは彼にとって関係ない。リーマンを潰したファルド会長の昨年のボーナスは4000万ドル、メリルを辞めたオニール前会長の退職金は1億2000万ドルだった。会社が傾こうが、潰れようが、いったん持ち出した金を返すことはい。
1984年、ゴールドマン・サックス証券はジェネラルパートナーが無限責任を負うパートナーシップの会社だった。このような所有形態であれば、リスク管理は、自ら完璧を期す。 2
潰れればその負債はパートナー個人にまで遡及するので、身包みはがれてしまうからである。投資銀行は、究極的にはこうした形態で運用する以外、リスクコントロールの方法は無い。外国銀行が不在地主で投資銀行を所有するなど、全く論外である。
1999年グラス・スティーガル法が廃止され、商業銀行と投資銀行が同じ土俵で競わなければならなくなった時、ゴールドマンもそうだが、大手の投資銀行は皆株式公開し、大幅に増資し、バランスシートを大きくして資産規模の勝負に出た。リーマンは業界4番手ながら、それでも負債の総額は6130億ドルである。
資本の30倍くらい借り入れを起こす。資本のうち、従業員の持ち分は、またその何分の一かである。従って、ほとんど全部「他人の金」で勝負でき、「収益は僕のもの、損は他人の物」という仕組みが出来上がった。これでは博打の賭け金は大きくなる一方である。金融が緩和され、過剰流動性があればなおさら拍車がかかる。最後に欲が過ぎて自爆した。ここには何の不思議もない。
「起こるべくして起きた」ことである。ウォール街は、何かの外部要因によって破綻したのでは決してない。自らの強欲を、自分でコントロールできなくなり「自爆」したのである。
ここ数年、「大恐慌が来る」のではと懸念してきたのだが、それは、そうしたウォール街の生きざまを見ていて、「続くわけがない」と思っていたからである
米国の金融自由化は州際銀行法の撤廃、グラス・スティーガル法の撤廃、保険との相乗りなどが主たるものであるが、結果は惨憺たるものである。シティバンクやワコビア銀行などの経営難、投資銀行の破綻、AIGの苦境などに、その結果が表れている。
日本の金融政策も小泉内閣、竹中主導金融政策で米国式金融規制緩和に向かってきている。
米国の金融自由化はちっとも人々の幸福に繋がらず、より大きなバブルを形成してきた。
それでは今後投資銀行はどうなるのであろうか。考えられる形態は3つだ。
1つは昔の「マーチャントバンク」に戻ることだ。小型で知恵と人脈で生きていく銀行である。
2番目はメリルのように、大きな商業銀行の一部となり、負債を預金保険(政府保証)付きの借り入れで賄うようにすること。
3番目は対顧客商売をすっかりやめて、ヘッジファンドになること。
一つの想像としては、モルガン・スタンレーは2番目の道を選び、ゴールドマンは3番目の道に進むのではないかというのが、今日のウォール街での茶飲み話である。今の形の投資銀行はもはや存在しなくなるではなかろうか。
金融、資本市場でのエポックは、第一回目が、1985年の「プラザホテル合意」で、第二回目が、1997年の東京マーケットでの山一證券、北海道拓殖銀行、日本長期信用銀行、日本債券銀行等破綻で、今回の第三の「サブプライムローン問題」である。
今回のエポックは、これから2〜3年は大きな再編、破綻、資本移動等が続き落ち着きどころが見えにくいが、投資銀行の今後は上述で間違いなかろうと思う。

バンク・オブ・アメリカがメリルリンチ証券買収
2008/09/16
バンク・オブ・アメリカのメリルリンチ証券買収に関する9月16日付けのロイター通信
の記事をご参考まで、下記のとおり記載しますのでご覧ください。
今後のニューヨクマーケットからは目が離せない状況が続き、注意深く見守る必要があります。その観点から重要な意味を持つ記事だと思い、掲載します。
[ワシントン/ニューヨーク 15日 ロイター] 米大手銀行バンク・オブ・アメリカ(バンカメ)
バンカメによると、買収は2009年第1・四半期に完了する見通し。買収により、税引き前で70億ドルの経費削減につながる見通しで、この経費削減は2012年までに完全に達成できる、としている。
また、メリルから取締役3人がバンカメの取締役会に加わるとしている。買収により2010年までに収益押し上げ効果が生まれるという。
買収価格は1株当たり約29ドルに相当し、12日の終値を70%上回る水準。ただ、メリル株は5月には50ドル、2007年1月初めには90ドルを超える水準で推移していた。
メリルは信用危機によって大きな打撃を受け、過去1年間に400億ドル以上の評価損を計上した。
メリルについては、複雑な仕組み証券へのエクスポージャーにもかかわらず、時価総額250億ドル超とされる大規模な証券幕ニなどを考慮すれば、過小評価されているとの見方が一部アナリストの間で出ていた。
メリルはまた、黒字の資産運用会社ブラックロック
シークリフ・キャピタルのポートフォリオマネジャー、ジェームズ・エルマン氏は「買収によってバンカメは、これまで弱かった3つの事業で強い立場を確保することになる」と指摘。「規模と質で国内有数のリテール証券事業と世界有数の投資銀行を獲得し、そして世界有数の資産運用会社の大株主になる」と述べた。
ただ、メリルのモーゲージ関連証券やその他仕組み債券へのエクスポージャーの複雑さを考慮すると、バンカメはデュー・ディリジェンス(資産査定)の時間が限られていたことからリスクも負っている。
オッペンハイマーのアナリスト、メレディス・ホイットニー氏は14日、「メリル買収はバンカメにとって長期的には明らかにポジティブだが、投資家の注目は当面、より広範囲なシステミックリスクに集まることから、株価がポジティブに反応する可能性は低い」と指摘した。

厳しい世界経済見通し
2008/09/02
今や、世界経済は、これまで健闘してきた日本やユーロ圏経済がついにマイナス成長になり
8月半ばには、主要先進国の景気悪化が一気に表面化し、新興国にも陰りが出て世界経済が深刻な景気後退に陥るとの声も上がってきている。
8月第3週は衝撃的な1週間となった。主要先進国で悪材料が相次ぎ噴出、どの国も欧米の信用危機の影響を避けられないことが露呈したからだ。それどころか今、すべての国が景気後退の瀬戸際にあり、様々なリスクが顕在化しつつある。
最初の悪材料は8月11日に発表された米連邦準備理事会(FRB)の調査報告書だった。融資責任者を対象とした同調査によれば、企業及び個人向けのあらゆる融資分野で米国の金融機関が融資基準を厳格化していることが分かった。借り手側の資金需要も弱く、米経済の先行きに影を落としている。
英国でも悪いニュースが続いた。英産業連盟 (CBI)のリチャード・ランバート会長は「CBIは過去1年、経済見通しを楽観しすぎてきた」と認めた。13日にはイングランド銀行(中央銀行)のマービン・キング総裁が英国の物価上昇率は数カ月内に5%を超える見通しだと発言。「1四半期、あるいは2四半期続けてマイナス成長に陥る危険性がある」と述べた。
問題は米英に限った話ではない。日本では第2四半期のGDP(国内総生産)が前期比0.6%減となり、過去7年間で最悪のマイナス成長となった。14日に発表されたユーロ圏のGDPは0.2%減で、1999年の通貨統合以来、初のマイナス成長に陥った。成長率が0.1%まで鈍化したスペインでは閣僚が夏休みを切り上げ、緊急閣議で景気刺激策をまとめた。
週後半になると、人々の関心が再び米国に向かった。7月の消費者物価指数が前年比5.6%上昇という91年以来最悪のインフレとなったからだ。
米国の問題が他国に波及すると予想していた大手投資銀行HSBCは、「意外だったのは悪材料そのものではなく、タイミングだった」と言う。7月まで何もなかったのに、8月に入ってすべてが一気に表面化したことが衝撃であった。
つい最近まで欧州の経済大国と日本は健闘していたのに、今やすべての先進国でインフレが高まり、景気後退の瀬戸際に追い詰められている。最大の懸念は、景気後退が弱った金融システムに打撃を与え、融資基準の厳格化が景気を一段と悪化させる負の連鎖だ。
多くの人にとって明白なのは「米国がくしゃみをすれば他国が風邪を引く」という古い至言の正しさだ。一時騒がれたデカップリング(非連動)理論は誤りだったことがはっきりした。
金融危機、信用収縮、住宅バブルの崩壊、株式相場の下落、原油その他のコモディティーのコスト負担、米国との貿易関係、ユーロ高といった要因に、インフレを恐れて身動きを取れない当局の事情が重なり、米国だけでなく世界経済全体が深刻で長い景気後退に陥る懸念が強まっている。
さらに、先進諸国の惨状はBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)の活況にも終止符を打つという。中国などの新興アジア諸国はG7向けの輸出減少に見舞われ、インドなどの貿易赤字国では資金流入が激減、資源輸出国はコモディティー相場の急落に打撃を受けるからだ。実際、インドの経済諮問会議は先に、同国の経済成長率が昨年の9%から今年は7.7%に鈍化するとの見通しを発表した。
だが、景気悪化をもたらしている様々な要因の比重が国によって異なるという重要な事実を見落としてはならない。
まず、一部の国の一見悲惨な第2四半期のGDP統計は極めて強い第1四半期からの調整と見た方がいい。ドイツでは第1四半期にGDPが1.3%伸びた後、第2四半期に0.5%のマイナス成長となったが、1年前と比べればGDPは1.7%拡大している。欧州最大の経済大国にしては悪くない数字だ。同じことは日本についても言える。第2四半期は前期比で0.6%のマイナス成長だったが、成長率を前年同期比で見ると、第1四半期の1.2%が第2四半期には1.0%へとやや鈍化したにすぎない。
先行きを楽観する2つ目の理由は、経済大国の間でも景気低迷の原因が異なるという点だ。コモディティー相場高騰は世界中の家計に打撃を与えたが、信用収縮と資産価格の急落、消費者債務の拡大が響いているのは、米国、アイルランド、スペイン、英国など、住宅市場が過熱していた国だけだ。
最も重要なのは、コモディティーブームに反転の兆しが見られることだろう。8月半ば、黒海向けパイプラインを擁するグルジアで戦争が勃発しても、原油相場の下落に歯止めはかからなかった。米JPモルガンは、コモディティー価格の下落が景気後退のクッションになると見る。原油が1バレル=145ドルだったらユーロ圏は景気後退入りだが、115ドルなら景気低迷で済むtの見通しを述べている。
コモディティー市場の変化は、近代の世界経済がある種の自動安定化機能を備えていることを示している。需要が増え続け、供給が伸びないうちは価格が急騰したが、8月半ばに石油と農産物の需給に関する好材料が出ると、相場は急落した。
そして何よりデカップリング理論は、一部の欧州諸国と日本が米国の特定の問題の影響をさほど受けずに済むという意味ではまだ有効だ。そもそもこの理論は、すべての国が原材料の高騰といった世界的な現象と連動せずに済むという話ではなかったのだ。
しかし、危険はあらゆるところに潜んでおり、先進諸国は重大な岐路に立たされている。ある調査によると、欧州の企業は今の問題に対する最善の答えは節約だと考えている。一方、米国は所得税還付の効果が切れる年末の情勢を不安視している。今後、米国、英国、スペイン、アイルランドが厳しい時期を迎えるのはまず間違いない。
直近の最高値から20%以上下がった原油急落は世界的なインフレ、景気悪化懸念を和らげるものの、家計や企業がインフレを当然のことと考え、賃上げスパイラルが起きる可能性は残る。仮にそうならなくても、執拗なインフレの脅威のせいで各国中央銀行は刺激策を取るのに二の足を踏むだろう。
つまり今のところ、世界の政策は様子見しかない。実際、コモディティー高騰と金融危機という二重のショックは今後1年で和らぎ、世界経済は新たな均衡点を見いだすかもしれない。以前ほど活気がなくても悪くはない状況だ。
十分あり得るシナリオではある。だが、この1年間の乱高下を見る限り、その実現性は高くない。先進諸国の今後の展望は一部の真っ暗な予測より明るいかもしれないが、それでも先行きは厳しい状況であると言える。

日本株は来年中盤までは期待薄か
2008/08/26
ゴールドマン・サックス証券(GS証券)は、日本株が本格的に上昇基調に乗るのは、企業収益の回復が鮮明になる2009年半ば以降になるとの見方を明らかにした。すでに市場の懸念は、インフレから景気減速に移っていると指摘。輸出依存度が高い日本は、世界経済の減速傾向が強まれば、日本株への投資にも相応の警戒が必要になるだろうと指摘している。同社が26日のリポートで見解を明らかにした。
リポートによると、政府が正式に宣言していないものの、鉱工業生産が2・四半期連続で前期比マイナスを記録したことで(1─3月期マイナス0.7%、4─6月期マイナス0.7%)、日本経済は07年10月にピークを付け、すでに景気後退入りしたと判断している。実質GDP成長率も4─6月期に2.4%のマイナスとなり、日本経済が外需減速とコストプッシュ・インフレに影響されやすいことが確認できたと分析。当然、企業収益の会社予想は楽観的と見られ、収益予想は今後数カ月の間にさらに下方修正される可能性があり、これが当分の間、株価の上値を重くする可能性があると指摘している。
世界経済の減速が09年中盤まで続く一方で、エネルギー価格は年末に再び上昇基調に転じるとみている(世界的に在庫が低水準なため、同証券のコモディティ・チームでは原油価格が08年末までに149ドル/バレルに押し上げられると見ている)。企業の利益率圧迫は続くと予想。こうした背景などを踏まえ同証券は、金融を含む東証1部上場企業の09年3月期経常利益予想を前年比5.1%減から同11.0%減、当期利益を前年比10.2%減から同12.0%減に下方修正した。10年3月期については経常利益予想を前年比9.6%増から同9.0%増、当期利益を従来の同12.5%増から同6.0%増に修正した。
GS証券は今年3月以来、日本はエネルギー効率が高いため原油高への耐性が相対的に強いことや、上場企業の6割がPBR(株価純資産倍率)1倍を切り、配当利回り(1.9%)が10年国債利回り(1.5%)を上回るなどバリュエーションに割安感があることなどを理由に、日本株は「相対的に安全な避難場所」になると主張してきた。実際のところ、日本株は世界的な株価急落の影響を免れてはいないものの下落率は比較的小さく、3月以降のパフォーマンスは世界株を約8%上回っていた。
今後の経済動向、株式市場の行方には要・警戒と思わざるを得ない。

富裕層が納税国を選ぶ時代に
2008/08/18
アメリカ大統領選挙は、民主党のオバマと共和党のマケインの一騎打ちという形で、次のフェーズに進んだ。オバマが2期、8年間のブッシュ政権のアンチテーゼとして打ち出すことが確実視されている政策の一つに、「メガ・リッチ層」に対する課税強化というものがある。ブッシュは、2010年に1兆3500億ドルの減税プログラムを実施したが、これは、主に富裕層向けの大型減税だった。オバマが中産階級向け政策の資金源として、この減税の廃止を目論んでいるのだ。さらにオバマは「タックスヘイブン乱用防止法」の推進者の一人であり、オバマが大統領になった場合は、アメリカとタックスヘイブン諸国との対決が始まることが予想されている。
これを先取りする形で富裕層向け金融サービスに強い、UBSのCFOを上院の公聴会に召喚。「米富裕層の脱税の温床になっており米当局の調査を受けている」などと追求した結果として、UBSは米国民に対する富裕層向け金融サービスからの撤退を余儀なくされることとなった。
これに先立ち、米議会は、UBSおよびリヒテンシュタインのLGT銀行について、米人富裕顧客に海外に隠し口座を持たせ脱税行為を幇助したとする100ページを超える調査書を作成し、脱税による米国国庫への損失額は実に1000億ドルに上るという衝撃的な数字を発表している。また、OECDの調査によると全世界の「タックスヘイブン」や匿名口座に預金されている資金総額は5兆ドル(約530兆円)から7兆ドル(約745兆円)に上るとみられている。
しかしながら、こうした政策をとっても、最終的に徴税額がふえるかどうかについては、かなり疑問視されている。というのも、政府が徴税制度を強化すれば強化するほど、法人同様に個人もまた国を捨てて納税地を移すという行動に出るからである。米国の場合は、米国籍を持つ人間に対し課税権を主張する属人主義をとっており、世界でも例外的な国であるが(他にはフィリピンだけ)国際課税の課税権の原則はどこに住んでいるかという住所で課税権を決定する、属地主義を採用しているからである。
そして、どこに住んでいるかという判定が、国を選択する個人、さらには選択される国同士の激しいせめぎあいとなっている。
「ハリー・ポッター」シリーズの翻訳者として知られる松岡祐子が住民票をスイスに移した後も、日本に住んでいる期間のほうが長いという理由で追徴課税を受けた。これも実態は、松岡と日本国政府との綱引きであると同時に、スイスと日本の綱引きでもある。
というのも、日本側の主張が採用されれば、スイス政府が松岡から納税を受けた数億円も、スイス政府から取り返すことが可能になるからだ。現在、水面下で協議が続いていると推察される。
一方、国家に対する不信が強いヨーロッパ富裕層の間では、実質的にどこにも住まないことで課税権から逃れるというライフスタイルが存在する。「PT」すなわち、Permanent Travellerというc手法である。PTとは、その名のとおり、「永遠の旅行者」というライフスタイルである。属地主義を採用している国は、特定の日(日本の住民税の課税基準日は1月1日の住所地)か滞在日数(例えば、183日以上)が居住の基準であることが多いので、特定の国に居住をせずに世界中の国を転々と移動していれば、どこの国においても課税されることがないわけである。
あるセミリタイヤした芸能人は、シーズンごとに北半球、南半球に点在する別荘などを移動していたわけだが、これは実はPTを狙ったものではないかというのが、業界の通説である。
そして、世界ではPTをターゲットにした様々なビジネスが存在する。
一つはオフショアの住宅である。例えば、ザ・リッツ・カールトングループがケイマン諸島に建設した豪華ゴルフ場付の別荘地は、建設開始程なくして完売し、現在、拡張中である。オフショアであるケイマンを本拠地にして、資産運用をしつつ、世界中を移動できるようにするニーズがあるためであろう。
同様に、各滞在先ではホテルよりも住居に近いサービスアパートメントが好まれる。サービスアパートメントとは家具付きの住居に近い宿泊施設で、ホテル同様の掃除等のハウスキーピングサービスが提供される。
こうしたライフスタイルを実施するうえで一つ問題になるのが、子供の教育である。親の仕事上、節税上の理由で永遠に旅を続けることと、学校で教育を受ける事は矛盾する。これに対応するサービスとしては、寄宿舎付の学校が、スイスをはじめ、世界中に存在しており、そうした学校に寄宿させるのが常である。各国が「居住地」判断基準を、日数等の形式基準から生活の拠点という実質基準に移しつつあり、子供を本国に残しておくと、この基準に抵触することから、子供自体他国に移動させてしまうわけである。
さらに言えば、、「住む国」、「働く国」、「資産運用をする国」、「住所を置く国」、
「パスポートを持つ国」、「子供を教育する国」、「バケーションを取る国」といった切り口で、特定の国に所属せず、それぞれの良いところを組み合わせて、いわばつまみ食いするようなライフスタイルが存在するのだ。
アメリカのベストセラー「Richistan」は主権国家を超えた超富裕層だけが参加する“Richistan”という別の国家が存在しているという問題提起を行ったがまさにそのとおりである。
こうしたライフスタイルは、歴史の長さ、層の広さが抜きんでているヨーロッパの富裕層が中心であり、日本人にはなじまないように思われるが、すでに、
企業オーナーや外資金融機関出身者の中で日本でも実践者が出始めている。
40代で輸入商社を経営する企業オーナーは「PTになった最大の理由は、節税をするというよりも、日本に希望を持てないという部分のほうが大きい。納税しても無駄使いされそうだし、子供の教育も日本の学校には期待できない。かといって、別にアイデンティティを持てる国もない。そうなれば、特定の国に属さない生き方が合理的だ」という。また、ヘッジファンド関係者は、「ビジネスをしていれば、それぞれの会社から良いものを組み合わせて買うのは当たり前。国だけが抱き合わせ販売をして良い理由はない」という。
グローバリゼーションは国自体も相対化させる。
国民であれば、無条件に従うものでもない。
そういう中で、どのようにして魅力的な国を作っていけるかが、すべての政府に問われる時代となってきている。

「中国独禁法」は何を狙っているか
2008/08/14
中国で8月、企業の競争を促す独占禁止法が施行される。学者と商務部が中心となって各国の独禁法をつぶさに研究し、大筋で先進国に劣らない法律に仕上げた半面、外資を規制する異例の条文を盛り込んだ。
中央政府内の主導権争いにより、独立した独禁当局は発足せず、複数の既存機関がばらばらに運用を担う見通し。運用方針を定めたガイドラインも九表されていない。世界の企業には「外資排除に使われるのでは」との不安が広がっている。
計画経済から社会主義市場経済への移行を受け、中国は1990年前後に独禁法の制定論議を開始。中央、地方の政府が所管業界や地元企業と一体となり競争業者を排除している現状を改めて、全国規模の企業を育てると喧伝した。しかし、2000年代半ばに外資導入の弊害が問題視され始めると、独禁法は一転、外資規制の流れに取り込まれた。
中国独禁法の基礎となったのは、EUの独禁法。
EU,米、日本はそれぞれ、独禁当局の官僚や学者を中国に送り込み、自国の法体系を採用するよう働きかけてきたが中国の法律はドイツ法の流れを汲んでおり、起草作業の中心となった学者らがドイツ留学組だったことが、EUに有利に働いた。EU独禁法が大企業による不当行為「市場支配地位の濫用」を厳しく規制していることや、数百億円規模の制裁金を科せる強力な法律であることも中国の関心を引き付けたようだ。
法律の主な要素は市場支配的地位濫用の禁止と、カルテル禁止、M&A審査の3点だ。
中国では巨大化した外資に市場支配的地位の濫用規定を適用すべきだと主張されている。企業の中国内シェアが1社で2分の1、2社で3分の2、3社で4分の3のいずれかであれば、支配的地位にあると推定される。地位を推定されれば、不当に高い価格で商品を販売したり、取引を断ったり、抱き合わせ販売をしたりした時点で即、違法と認定される可能性が高い。
近頃は「マイクロソフトを第一号に」との声が大きい。
6月には政府が調査を開始したと中国紙が報道し、当局が否定する騒ぎも。
マイクロソフトはOSと音楽ソフトの抱き合わせなどでEUに計16億7000ユーロ余(約2700億円)もの制裁金を科されており、独禁法には敏感。
既に米本社の弁護士チームの一部を北京に移し、対策を練っているといわれる。
他に名前を挙げられているのは、米コダック、仏ミシュランなど。
日本企業ではソニーだ。ソニーのデジタルカメラは純正の充電池しか搭載できず、他社製品やリサイクル製品を入れても認識されない仕組み。ソニーは電池の残量を正確に把握し表示するためのシステムだとしているが、四川省の電池
メーカーが「他社製品を排除している」として提訴した。訴訟では昨年ソニーが勝訴したが、独禁法が施行されれば当局が動く可能性も指摘されている。
日本勢は消費者のシェアこそ低いものの、建設機械や部品では力が強い。
国全体ではなく地方レベルでシェアを計算され、支配的地位を認定される可能性もある。違法となれば巨額の制裁金が待っているが、日本企業の危機意識は欧米に比べて薄い。
大型国際カルテルの摘発は、自主申告制度の詳細が決まっていないことから当面は申告が出されず、立件も先になる見通し。しかし、物価上昇に国民の不満が高まっているため、国内のカルテルで政府の許可のないものは厳しく摘発されるとみられている。昨年8月には業界団体「世界ラーメン協会中国支部」がインスタント麺の値上げを取り決めていたとして是正命令を受けた。
値上げには、日清食品の現地法人も加わったと報道された。
中国事情に詳しい弁護士は「業界団体の集まりに日本企業が付き合いで参加することがある。現地社員の意識は低い。日本本社が徹底教育しなければ危ない」と注意を促す。
M&A審査の規定は、国外で行われる合併・買収でも国内に影響が及ぶ場合は禁止や是正を命令できる強力なもの。英豪資源大手BHPビリトンによるリオ・ティント買収計画のような大型案件を対象にできる。
また、国家の安全に関わるとみなされた場合、通常の審査とは別に業界の所管官庁による「国家安全審査が行われる。日本でも英投資ファンドによる電源開発株買い増しの動きに対し、独禁法上は問題がないにもかかわず政府が外為法に基づき中止命令を出した。
中国はこの範囲内の規定だと説明するが、対象業種が広がる恐れがある。
建設業界の分野でも米投資ファンドが中国企業の株式取得を試みて世論の反発に遭い暗礁に乗り上げた例がある。
中国は各業種で国を代表する企業「ナショナルチャンピオン」の育成を図っており、内資向けに「合法な独占経営を保護する」という条文を設けた。
中国独禁法の規制対象となるのはもっぱら外資であり、無許可カルテルを除けば、内資は網にかけられないとの見方もささやかれている。
皮肉にも、中国は日本をこうした内資保護の手本とみなしている。
日本は経済産業省が主導して、鉄鋼業の不況カルテルを合法化するなどして歴史がある。日本が行った研修で中国の関心はこの点に集中し、「国内産業が成熟するまで、日本は競争を導入しなかった」と理解していたという。
行政による独占に対しては、草案段階では独禁当局が中止命令を出す権限が書き込まれた。しかし最終法案からは削除され、行政独占を行った機関の上級庁に対し、独禁当局が意見を述べるとの形式的な条文に格下げされた。
中国には、外資が先進国では不当行為を控え、独禁法のない中国で好き放題やっているという意識がある。先進国で問題になるような不当行為を、企業側が改めるのは当然のことだ。
一方、中国独禁法に外資排除、内資保護色が強すぎるのも事実だ。
ある経済法学者は、行政独占を温存したまま外資を排除したのでは中国企業の競争力もつかないと分析。「日本ではナショナルチャンピオン政策はうまくいかず、競争の厳しい業種が伸びた」と語る。
独禁法は本来、外資内資を区別せずに適用すべきものである。
中国は世界の反応を気にかけている。
日本政府はこうした法の本質と日本の経験を中国に主張し、行政独占と内資への適用を促し続ける必要があるだろう。



















