「アクティビスト」狡猾なPR戦術
2008/06/19
Jパワー経営陣と筆頭株主の英投資ファンド、ザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンド(TCI)の対立は、ついに「プロキシーファイト」に発展した。
年間60円の配当を最大120円に引き上げることや、株式持合いの制限、3人以上の社外取締役の導入などを対案している。配当については、Jパワー側が70円への引き上げを決めたものの、TCIの提案は全て退けている。
こうした動きは今後も増えていくのか。
ある外資系ヘッジファンドマネージャーは、「不況期に入って株価全体が落ち、どの株を買っても儲けにくくなってきたので、会社に圧力をかけるタイプの投資家が復活してきた。好況期には非効率な会社もそれなりに儲かっており株価も高いが、不況になると割安になる。そこが、アクティビストと呼ばれる、会社に圧力をかけるタイプのファンドの活躍できるタイミングなのだ」という。
また、ある外資系投資銀行家は、「今回、Jパワーが狙われたのは象徴的。エネルギーは役割を失いつつある経済産業省の最後のドル箱なので非合理性が残っている。ブルドックソースのように現金を支払ってしまったケースが最たるものだが、非効率な産業で経営陣が経営権を守るために非合理的なことをしてくれたほうがチャンスが広がる」という。
それではアクティビストがターゲットを決めた場合、どのような手を打ってくるのか。
企業法務に詳しいある弁護士は、「以前のような露骨な買収・企業解体型の乗っ取り屋は、他の株主や世論を敵に回してほぼ姿を消した。現在のアクティビストは自分だけで戦わず、他の投資家や世論を見方につけるべく、PRに力を入れてきます。票を集めるという点からは政治に似ています」という。
実際、アクティビストは、選挙並みのイメージ戦略を展開するために広告代理店はPR会社を積極的に活用しており、PR産業のなかでも、ヘッジファンド向けは最大の成長分野なのである。PR活動は以下の3つに分かれている。
第一のポイントは、理論武装を行い、経営改革を求めるいわば「マニフェスト選挙」である。例えば、著名投資家のアイカーン氏がモトローラに、会社の事業の三分割を要求した際には、外部の専門家を雇って、数百ページにも上る経営改善報告書を準備した。会社側が反論すれば、再反論し、新しい論点、要求ポイントにエスカレートさせ、世間の関心を高めていく。さらには、国会のテレビ中継を意識した論戦のように、要求ポイントをフリップで説明する記者会見を開いたりもする。それでも、経営陣が要求を受け入れない場合には、その経営改革案を実現するための、社外取締役候補を立てて圧力をかける。
第二のポイントは、「メディアを使ったイメージ戦略」である。
TCIが株式会社化されたドイツ証券取引所と対決したときは、金融機関に大きな影響力があるファイナンシャルタイムズが大任を担った。当時のドイツ証券取引所のCEO、ザイフェルト氏の株主軽視の姿勢、経営上の問題点などがちょうど良いタイミングでリリースされていった。ザイフェルト氏の著書によれば、これはすべて捻じ曲げて作ったストーリーをリークし、メディアが増幅させるというTCI側=ロスチャイルドグループの巧妙な戦略だったという。メディアでのイメージとなればテレビ映りも重要である。
アイカーン氏は最近、赤ネクタイ、青と白のワイシャツという服装が目立つがこれは米国の政治家がよく使う、星条旗をイメージする服装である。つまり、自分が「米国の大義」を象徴していることを暗に伝えているわけだ。いまや大統領選挙をはじめ、高学歴へのアプローチに重要な役割を果たしているインターネットにもアイカーン氏は手を伸ばしており、近く個人のブログを立ち上げることを発表している。日本を舞台とするなら米国の大義ではなく、日本に合わせた広報イメージ戦略が本来必要である。経営陣が合意したM&Aが株主総会で否決された国内で初めての例となった東京鋼鐵の場合は、いちごアセットマネジメントのスコット・キャロン社長が日本の永住権を持ち、日本語も堪能であり、「一期一会」から社名をつけるという日本人以上に日本に愛着を持つ投資家としてのイメージを持っていたがゆえに他の投資家を仲間につけることができたといえよう。
第三のポイントは、「金儲けのイメージを和らげる」である。
いかに大義を掲げようともファンドの目的は利益を上げることにあるから、社会一般の協力を得にくい。そこで、こうしたファンドは往々にして社会貢献に協力的である。
実際、TCIの利益の一部は発展途上国で貧困に苦しむ子供たちの生活改善を主な目的とする非営利組織「ザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンド財団」に寄付されており、社名からしていかにも世界の子供たちのために投資しているイメージを与えている。
既に数千億円の資産を所有するアイカーン氏に至っては、もはや金儲けよりも、「株主利益を主張することで資本主義を変えた男」として歴史に名を残すことがインセンティブになっており、オバマの政策を「ばらまき政治」として批判している。
こうしたアクティビストに対して、日本企業はどのような備えをすればよいのか。
最大のサメよけは効率的な経営で高株価を維持することである。
アクティビストは経営の非効率と経営陣の保身に飛びつく徒花であるから、効率が良い会社には寄ってこない。もちろんIRは重要だが、最終的な処方箋にはならない。というのも、会社にとって都合の良いことだけを発表するIRはかえってアクティビストにより問題点が暴かれて大々的に喧伝されるリスクが高まるからである。実際、ドイツ証券取引所もIR優秀企業として表彰されてきたが、そんな名声は防波堤にはならなかった。
最終的には、ファンド会社と会社トップの宣伝合戦、株主と世論に対する選挙活動にならざるを得ない。企業トップがファンドの掲げる大義に負けないような理念を発信できる優れた代弁者でなければ、アクティビストの餌食になりかねないのである。


















