金融業界Blog

買収防衛策で経産省が方針転換ー国内産業・市場に追い風

2008/07/11

経済産業省の企業価値研究会が6月11日に「近時の諸環境の変化を踏まえた買収防衛策のあり方」と題する報告書を公表した。この研究会は、2003年12月にあった米国系投資ファンド、スティール・パートナーズによるユシロ化学とソトーに対する敵対的公開買付の試みなど、日本市場における敵対的M&A(合併・買収)の可能性が現実のものとなる中で設置された。研究会の議論は「企業価値報告書」にまとめられ、2005年5月に経済産業省と法務省が共同で策定した「企業価値・株主共同の利益の確保または向上のための買収防衛策に関する指針」の基礎となった。
 
 ライブドアとフジテレビの間で展開されたニッポン放送の経営支配権をめぐる争い(2005年2月─4月)が社会的な注目を集めたこともあり、企業価値報告書とそれに基づく指針は、敵対的買収への対策を検討する日本企業のバイブルとなった。
 それから3年。買収防衛策を導入した日本企業の数は500を超え、昨年8月には、ブルドックソースがスティール・パートナーズに対して発動した買収防衛策をめぐって初めて最高裁判所による判断が下された。こうした状況の変化を踏まえ、買収防衛策の火付け役とも言うべき研究会が、あらためて見解を取りまとめたのである。

 注目されるのは、今回の報告書全体を貫くトーンとして、日本企業の買収防衛策や導入企業の経営者の姿勢に対する危機感とも言うべきものが強く感じられることである。報告書は、買収防衛策とは、本来、買収者とターゲット会社の経営陣が株主にとって、より優れた買収条件や経営提案を引き出せるよう交渉することを可能にするための仕組みだという認識に立つ。
 ところがブルドックソース事件をめぐる最高裁決定以降、企業の間では、敵対的買収者に経済的損害を与えないよう金銭を支払えばよいとか、持ち合い等で友好的な安定株主を確保しておけば、経営陣の意に沿わない買収者は総会決議でいつでも撃退できるといった見方も広がっており、買収防衛策が交渉の道具というよりは既存経営者の保身のために用いられる危険性が高まっている。
 報告書は、こうした現状に警鐘を鳴らし、買収防衛策が本来期待されていた役割に立ち戻ることを求めている。もちろん企業価値研究会のメンバーや主催者である経済産業省は、こうした報告書の姿勢は、2005年の報告書以来一貫していると主張するだろう。報告書の内容を詳細に分析すれば、そうした主張が牽強付会(けんきょうふかい)とも言えないのは確かである。

 しかし、報告書が企業社会に対して発するメッセージは、前回が買収防衛策導入へのゴーサインだったのに対して、今回は、今後の新たな導入に対してはもちろんのこと、既に防衛策を導入した企業に対しても、そのあり方の再考を迫っており、大きく異なっている。
 こうした中で経済産業省は、投資ファンドの意義について分析した「ファンド事例研究会」の報告書を取りまとめ、投資ファンドの日本における活動の妨げとなっていると考えられる税制上の取り扱いについての改善を財務省に対して求めている。6月26日付「フィナンシャル・タイムズ」にも取り上げられ、「日本が外国投資家に対して暖かになった」という見出しで少なくともアジア版では一面トップで伝えらた。

 これらは何を意味するのか。最近、経済産業省というと、英国系投資ファンドTCIによるJパワー株買い増し計画に対する中止命令を発動するなど、外国人投資家に冷たいイメージを持たれがちであった。外国ファンドを主たるターゲットと想定しながら検討されることの多い買収防衛策を後押ししてきたことや、事務次官が投資ファンドを軽視するかのような発言をしたことなども、経済産業省が開かれた資本市場に好意的でないという印象を与えがちであった。
 その経済産業省が、あらためて投資ファンドをはじめとする投資家・株主の役割を重視し、上場企業の経営陣が保身に走ることを戒めようとしているのだとすれば、その意義は大きい。少なくともFT紙の見出しは、そうした方針転換の気配を読み取って付けられたものだろう。
 そもそも経済産業省の役割は、日本の産業の振興・活性化である。産業の担い手が上場企業である場合、その振興は、資本市場の機能や投資家・株主との対話を排除しては成り立ち得ない。
 また、日本の産業の担い手は、いわゆる日本企業だけには限られない。外資系であっても一向に構わない。真の産業振興のためには、時には産業の直接の担い手である企業に対して、市場の論理に基づく厳しい要求を突きつけねばならないこともある。ここのところの経済産業省の方針転換(とみられる動き)は、日本の産業と市場の中長期的な成長にとっても追い風となるものだろう。
  
 
 
 
 

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