金融業界Blog

円安の陰に円調達ー世界の資金調達を担う日本

2008/07/16

今年6月は円安の月と言えた。対ドルで104円を上回るほどの水準から、一時108円を割り込んだだけでなく、対ユーロ、対ポンド対豪ドルなどに対しても、円は、軒並み一方的な下落をたどった。金融市場の目が米欧の金融政策動向に注がれる中、ともすれば「蚊帳の外」に置かれても不思議でなかったはずの円相場が、振り返ってみれば、最も明確な方向感を示していたのは意外なことである。
 しかも、一方で原油価格は未曾有の高騰を続け、その背景にはイラン情勢やナイジェリア情勢など、いわゆる「地政学的リスク」の高まりがあった。原油価格の高騰が資源を持たぬ日本に不利なことは確かだが、「地政学的リスク」の高まりと投資家の「リスク回避」の動きは、従来であれば、むしろ円高を招いてもおかしくない要因だったはずだ。
 その円安の正体として、通貨市場で盛んに取り沙汰されたのは、6月が日本の「ボーナス月」という事実である。日本企業の多くが従業員に対してボーナスを支給するこの月に、日本の個人投資家の間から大量の外貨資産購入が持ち込まれ、それが円を押し下げたとの見方だ。
 この見方は、欧米のヘッジファンドなどの間で抜群の説得力を持った様子で、実際、外貨建て投資信託や売り出し債(個人向けの外貨建て債券)の動向に関する問い合わせが引きも切らなかった模様である。
 しかし、6月の円安をボーナスマネーのせいにするのは、我々日本人にしてみれば、そもそも不自然な発想ではないか。「ボーナス月」と言っても、ボーナスが支給されるのは、大抵の企業で、20日前後過ぎの給料日だ。支給されたボーナスが、間髪入れずに投資に回る割合がそれほど高いとは思われない。
 ましてや、支給前からその運用先として外貨資産が買い上げられることなど、考え難い。こんな中で気がついたことがある。
 「米シティ、個人向けサムライ債発行へ 最大1000億円(6月10日)」
 「サムライ債発行額急増 08年度9000億円突破(6月13日)」
 「邦銀協調融資、外国企業向け大幅増(7月1日)」
 そして、「世界の協調融資4割減(7月7日)」…。
 いずれも日本経済新聞からの記事の見出しだが、日を隔てて掲載されたこれらの記事と進む円安とが、1つの線でつながっているように思えた。

 サムライ債は、海外の政府や公社や優良企業などが、日本国内で発行する円建て債券だ。協調融資も邦銀が主役を務める以上、その資金の大半は円で調達されるものとみていいだろう。一方で、世界に目を転じれば、協調融資による資金調達は大幅に減少していると言うのだ。つまり、一連の記事は、欧米の大手金融機関が、昨夏のサブプライムローン危機以降、資金繰りに汲々とする中、日本、すなわち円市場が、世界の資金調達の主役に躍り出た事実を描き出している。
 円による資金調達が世界の資本市場を席巻している様子は、金融市場の動きからも読み取ることができる。円の変動金利と、ドルの変動金利とを、将来にわたって交換する、「ベーシススワップ」という金融商品の変動が今年6月に前後して、はっきりと円金利の「受け取り」圧力が強まっている様子を見て取れるデータが手元にある。
 債券発行にせよ、協調融資にせよ、通常、日本国内で円資金を集めた海外のボロワー(発行体/借り手)は、その資金の使途に合わせ、円をドルなどの外貨に交換する。その時、為替市場で円を売却し、外貨を購入すれば、話は簡単だ。
 しかし、それでは莫大な為替変動リスクを背負い込むことになる。そこで、実際には、将来的に外貨を円に交換し直すという約束で、集めた円を外貨と交換し、その間、円金利を受け取る一方で外貨の金利を払い続ける契約を結ぶ。
 こうした仕組みを通し、円資金を調達したはずのボロワーは、実質的には外貨資金を調達し、それに対し外貨で利息を払う格好になる。「ベーシススワップ」が6月に前後して円金利の「受け取り」超に傾いているのは、このような仕組みを提供した金融機関の間で、将来的に支払う円金利をヘッジするために、あらかじめ円金利の受け取りを確保しておく圧力が高まった結果と見るのが妥当ではないだろうか。
 何故そんな面倒なことをするのか。
 外貨資金を調達し、外貨で利息を払うのであれば、最初から外貨で資金を集めればいい。せっかく低金利の円で資金を調達しても、実際に支払う金利が外貨の金利では、低金利の恩恵にはあずかることもできない。しかし、円建ての資金調達が、昨今、隆盛を誇るのは、新聞記事を読む限り事実であるし、「ベーシススワップ」の値動きからも裏づけられる。
単純明快な答えは、「円=日本の方が潤沢な資金があるから」ということになろう。日本が資金調達の市場としてもてはやされるようになった経緯は、欧米に吹き荒れたサブプライム危機と無縁ではない。
サブプライム危機の影響が比較的軽微であった日本の資金市場は、有り体に言ってしまえば、「財布の紐が緩い」市場と言えるわけだ。資金繰りに汲々としている市場よりも、「財布の紐が緩い」市場の方が、資金調達の条件が有利になるのは自然なことだろう。
それでは、円市場の「財布の紐が緩い」のが事実として、円相場との関連をどのように解読したらいいのだろうか。上述の通り、円建てで調達された資金は、たとえ資金の使途が外貨であったとしても、通常は為替市場を通さずに外貨に転換され、論理的には、円相場に一切の影響を与えないはずだ。
 しかし、第一に疑われるのは、調達された円資金の一部でも、為替市場を通して外貨に転換されている可能性はないか、ということだ。調達資金の全額に対して為替変動リスクを負うのは、非常に大きな冒険と言えるが、その資金の一部だけなら…。
 そうすれば低金利の恩恵にもあずかることができる。つまり、円で資金調達した主体は、その一部で「円キャリー取引」をすることになるが、円建て資金調達の規模がこれだけ大きくなれば、一部といえども、円相場に与える影響は無視できないものになり得る。
 それ以上に気がかりなのは、「財布の紐が緩い」日本が、またぞろ世界の資金調達市場になっている事実だ。調達された円資金が、はっきりとした使途に向かって外貨に転換されていくのとは対照的に、外貨への転換を提供した金融機関などの手元に丸々残る運命にある円は、その調達資金が返済されるまでの期間、「余剰」資産として運用され、金融市場を巡り巡ることになる。
およそ市場の価格形成の根本に、「需給」というものがあるのなら、一方に「財布の紐が緩い」市場で集められた「余剰」資産があり、他方に流動性の逼迫した、明確な使途が待っている資産があった場合、どちらの資産が強くなっていくかは、自明のことと言えよう

ハイクラス登録

かんたん登録

求人検索

毎月限定15名 無料キャリア相談受付中 経験豊富な役員が対応させていただきます

金融キャリアコンサルタントが伝える転職7つのポイント

キャリアコンサルタント紹介

マスコミ掲載一覧

Q&A

金融用語集

業界お役立ちリンク集