「中国独禁法」は何を狙っているか
2008/08/14
中国で8月、企業の競争を促す独占禁止法が施行される。学者と商務部が中心となって各国の独禁法をつぶさに研究し、大筋で先進国に劣らない法律に仕上げた半面、外資を規制する異例の条文を盛り込んだ。
中央政府内の主導権争いにより、独立した独禁当局は発足せず、複数の既存機関がばらばらに運用を担う見通し。運用方針を定めたガイドラインも九表されていない。世界の企業には「外資排除に使われるのでは」との不安が広がっている。
計画経済から社会主義市場経済への移行を受け、中国は1990年前後に独禁法の制定論議を開始。中央、地方の政府が所管業界や地元企業と一体となり競争業者を排除している現状を改めて、全国規模の企業を育てると喧伝した。しかし、2000年代半ばに外資導入の弊害が問題視され始めると、独禁法は一転、外資規制の流れに取り込まれた。
中国独禁法の基礎となったのは、EUの独禁法。
EU,米、日本はそれぞれ、独禁当局の官僚や学者を中国に送り込み、自国の法体系を採用するよう働きかけてきたが中国の法律はドイツ法の流れを汲んでおり、起草作業の中心となった学者らがドイツ留学組だったことが、EUに有利に働いた。EU独禁法が大企業による不当行為「市場支配地位の濫用」を厳しく規制していることや、数百億円規模の制裁金を科せる強力な法律であることも中国の関心を引き付けたようだ。
法律の主な要素は市場支配的地位濫用の禁止と、カルテル禁止、M&A審査の3点だ。
中国では巨大化した外資に市場支配的地位の濫用規定を適用すべきだと主張されている。企業の中国内シェアが1社で2分の1、2社で3分の2、3社で4分の3のいずれかであれば、支配的地位にあると推定される。地位を推定されれば、不当に高い価格で商品を販売したり、取引を断ったり、抱き合わせ販売をしたりした時点で即、違法と認定される可能性が高い。
近頃は「マイクロソフトを第一号に」との声が大きい。
6月には政府が調査を開始したと中国紙が報道し、当局が否定する騒ぎも。
マイクロソフトはOSと音楽ソフトの抱き合わせなどでEUに計16億7000ユーロ余(約2700億円)もの制裁金を科されており、独禁法には敏感。
既に米本社の弁護士チームの一部を北京に移し、対策を練っているといわれる。
他に名前を挙げられているのは、米コダック、仏ミシュランなど。
日本企業ではソニーだ。ソニーのデジタルカメラは純正の充電池しか搭載できず、他社製品やリサイクル製品を入れても認識されない仕組み。ソニーは電池の残量を正確に把握し表示するためのシステムだとしているが、四川省の電池
メーカーが「他社製品を排除している」として提訴した。訴訟では昨年ソニーが勝訴したが、独禁法が施行されれば当局が動く可能性も指摘されている。
日本勢は消費者のシェアこそ低いものの、建設機械や部品では力が強い。
国全体ではなく地方レベルでシェアを計算され、支配的地位を認定される可能性もある。違法となれば巨額の制裁金が待っているが、日本企業の危機意識は欧米に比べて薄い。
大型国際カルテルの摘発は、自主申告制度の詳細が決まっていないことから当面は申告が出されず、立件も先になる見通し。しかし、物価上昇に国民の不満が高まっているため、国内のカルテルで政府の許可のないものは厳しく摘発されるとみられている。昨年8月には業界団体「世界ラーメン協会中国支部」がインスタント麺の値上げを取り決めていたとして是正命令を受けた。
値上げには、日清食品の現地法人も加わったと報道された。
中国事情に詳しい弁護士は「業界団体の集まりに日本企業が付き合いで参加することがある。現地社員の意識は低い。日本本社が徹底教育しなければ危ない」と注意を促す。
M&A審査の規定は、国外で行われる合併・買収でも国内に影響が及ぶ場合は禁止や是正を命令できる強力なもの。英豪資源大手BHPビリトンによるリオ・ティント買収計画のような大型案件を対象にできる。
また、国家の安全に関わるとみなされた場合、通常の審査とは別に業界の所管官庁による「国家安全審査が行われる。日本でも英投資ファンドによる電源開発株買い増しの動きに対し、独禁法上は問題がないにもかかわず政府が外為法に基づき中止命令を出した。
中国はこの範囲内の規定だと説明するが、対象業種が広がる恐れがある。
建設業界の分野でも米投資ファンドが中国企業の株式取得を試みて世論の反発に遭い暗礁に乗り上げた例がある。
中国は各業種で国を代表する企業「ナショナルチャンピオン」の育成を図っており、内資向けに「合法な独占経営を保護する」という条文を設けた。
中国独禁法の規制対象となるのはもっぱら外資であり、無許可カルテルを除けば、内資は網にかけられないとの見方もささやかれている。
皮肉にも、中国は日本をこうした内資保護の手本とみなしている。
日本は経済産業省が主導して、鉄鋼業の不況カルテルを合法化するなどして歴史がある。日本が行った研修で中国の関心はこの点に集中し、「国内産業が成熟するまで、日本は競争を導入しなかった」と理解していたという。
行政による独占に対しては、草案段階では独禁当局が中止命令を出す権限が書き込まれた。しかし最終法案からは削除され、行政独占を行った機関の上級庁に対し、独禁当局が意見を述べるとの形式的な条文に格下げされた。
中国には、外資が先進国では不当行為を控え、独禁法のない中国で好き放題やっているという意識がある。先進国で問題になるような不当行為を、企業側が改めるのは当然のことだ。
一方、中国独禁法に外資排除、内資保護色が強すぎるのも事実だ。
ある経済法学者は、行政独占を温存したまま外資を排除したのでは中国企業の競争力もつかないと分析。「日本ではナショナルチャンピオン政策はうまくいかず、競争の厳しい業種が伸びた」と語る。
独禁法は本来、外資内資を区別せずに適用すべきものである。
中国は世界の反応を気にかけている。
日本政府はこうした法の本質と日本の経験を中国に主張し、行政独占と内資への適用を促し続ける必要があるだろう。


















