「オバマ大統領」誕生後も続く金融調節
2008/11/13
バラク・オバマ米次期大統領が財務長官に誰を選ぶのか、いつになく市場の関心が高まっている。金融危機の渦中であるだけに、「クライシス・マネジャー」としての新財務長官の采配が重要となるからだ。
最有力候補はローレンス・サマーズ・ハーバード大学教授(53歳)と、ティモシー・ガイトナー・ニューヨーク連銀総裁(47歳)であろう。公的資金を金融機関に注入していく局面だけに、次期財務長官はウォール街出身者でない方がよいだろう。一方で、議会とは激しい折衝が続く可能性が高いため、タフ・ネゴシエーターである必要がある。 財務省での経験という点では、サマーズ氏はクリントン政権時の財務長官だったし、ガイトナー氏はその際の財務次官補でサマーズ長官の懐刀役だった。昨年夏から本格化したサブプライム危機にニューヨーク連銀を陣頭指揮してきた実績は高く評価されている。だからこそ今後もベン・バーナンキFRB(米連邦準備理事会)議長の右腕として、ニューヨーク連銀総裁をガイトナー氏に続投させる方がよい、という声も聞こえてくる。
財務長官とともに、次期FRB議長の人選も来年夏以降は、マスコミの関心を集めるだろう。現在のバーナンキFRB議長の任期は2010年1月まで。オバマ氏が来年1月に大統領に就任しても、FRB議長が更迭されることはないはずだ。 バーナンキ氏は共和党支持者であり、ブッシュ大統領の指名により、FRB理事、大統領経済諮問委員会委員長、FRB議長を歴任してきた。ただし、政治色が濃い人物ではない。危機時の経験を有していることや、大恐慌研究の権威であることを重視すればオバマ次期大統領は彼を再任するだろう。 しかし、再任されるかは、現時点では微妙なところと思われる。マスコミの報道においては、民主党支持者と見なされているジャネット・イエレン・サンフランシスコ連銀総裁の名前などが次期FRB議長候補として挙げられている。
次期政権の布陣に関心が向かっているのも、米政府やFRBに救済資金を求める大合唱が米国のあちこちで高まっていることもある。救済対象を自動車会社など様々な業種に拡大していったら、金融安定化法が用意した7000億ドルは遠くない時期に底をついてしまうだろう。また、緊急融資を拡大し続けるFRBのバランスシートも限りなく膨張しそうである。
リーマン・ブラザーズ破綻前の9月10日のFRBの資産規模は9429億ドルだった。それが11月5日には2兆758億ドルに達した。資金繰りに窮した銀行、証券会社、マネーマーケット・ファンド、保険会社(AIG)などへの貸出が増加した。 さらにFRBは、10月最終週から、金融機関、企業の資金繰り対策として、コマーシャルペーパー(CP)を間接的に買い入れる制度(“CPFF”)を大規模に稼働させている。2週目にその残高は早くも2433億ドルに上っている。ECB(欧州中央銀行)や日本銀行などが実施しているドル資金供給策も、FRBのバランスシートを膨張させている。
11月24日からはマネーマーケット・ファンド支援をより推し進める新制度“MMIFF”をFRBは導入する。 FRBの資産がかつてない勢いで膨張を続けている結果、ニューヨークのドルの銀行間市場ではマネーがジャブジャブに溢れている。銀行がFRBに預けている預金残高(いわゆる準備預金)の1週間の平均は、9月10日時点は80億ドルだったが、11月5日時点は4936億ドルと、わずか2カ月で62倍に膨らんだ。 日銀が量的緩和策を行っていた頃に、金融機関が日銀に預けていた預金残高は最高で36兆円近辺だった。しかも、超過準備(法定積み立て分を上回る準備預金)の比率は、現在のFRBの方がはるかに高い。FRBの現在の政策は、どこからどう見ても大規模な量的緩和策と言える。
資金がだぶついている結果、ドルの銀行間無担保オーバーナイト取引であるフェデラルファンド(FF)取引の金利がFRBの誘導目標(政策金利)よりも大幅に下落している。10月29日にFOMC(米連邦公開市場委員会)は誘導目標を1%に引き下げたが、今やその目標は形骸化している。実際の平均金利(ニューヨーク連銀調べ)は29日0.36%、30日0.30%、31日0.22%、11月3日0.23%、4日0.23%、5日0.23%である。 FF金利を少しでも目標に近づけようとして、FRBは超過準備への付利を11月6日から1%に引き上げた(従来0.65%)。しかし、FF金利の平均金利は、6日0.23%、7日0.27%である。欧州系銀行など(米国から見た)外国銀行がドルの資金調達手段としてよく使っているユーロドル・オーバーナイト取引の金利も低下しており、FF金利との差が以前よりも小さくなっている。
現在、日銀の政策金利(無担保コール・オーバーナイト金利)は10月31日の利下げにより、0.30%近辺で推移している。それよりもFF金利の方が低い状態が続いているのだ。超短期の金利に関して言えば、日米で既に金利水準は逆転していると言える。米国の銀行間市場金利が超過準備の金利水準より低迷しているのは、ファニーメイやフレディマック(米連邦住宅貸付抵当公社)などのGSE(政府支援企業)や国際機関などFRBの付利の対象とならない参加者が多く存在するためだ。 こう言うと、超過準備への付利に意味がないと思われるかもしれないが、付利がなければFF金利の平均金利は、連日ゼロ%近辺へ下落しているはずだ。そう考えれば、付利の効果を否定できない。
FF金利が誘導目標から大幅にずれているという点で、現在のFRBの金融調節は破綻していると言えるが、誘導目標に近づけるためにFRBが資金供給を絞り込めば、今回の金融危機で疲弊している金融機関やファンド、企業の資金繰りに影響を与えてしまう可能性を否定できない。 このため、FRBは大量資金供給を止められないでいる。それどころか、これから年末に向けてさらに増加していく見通しである。年末時点のドルの超過準備の残高は1兆ドルを超える可能性がある。 資金の大量供給による資産の膨張と誘導目標を下回る金利水準は、金融政策に携わる当事者にとっては頭を悩ます問題だが、逆に朗報になるのは金融機関や法人、個人の資金調達に影響を与えるLIBORのドル3カ月物が、落ち着きを取り戻したことだ。
LIBORドル3カ月物は9月のリーマン・ブラザーズ破綻直後から急上昇を見せたが、ここ数週間はピークから2.4%以上低下し、リーマン破綻前の水準へと下落している。ただし、LIBORを構成している要因を分解して考えてみると、まだ安心できない部分も残っている。 LIBORはFRBによる大規模な救済融資によって、大きく低下してきた。こうした有事対応で金利は落ち着いてきたものの、通常の取引活動で水準が落ち着くまでには至っていない。その意味で、金融政策当事者が頭を悩ます日々は、まだ続きそうだ。


















