金融業界Blog

SWFが世界を支配する?

2008/04/17

毎年1月に開催される世界経済フォーラム、通称「ダボス会議」で、今年の経済関連セッションで採りあげられたものは、「SWFの神話と現実」というタイトルであった。

昨年夏に発覚したサブプライム危機は、シティグループやメリル、UBS等の欧米大手金融機関へ資本注入した中東産油国やシンガポール、中国等々のSWF(いわゆる、政府系ファンド)によって世界が大恐慌の奈落に落ちるところから救われたと言って良い。

昨年5月モルガンスタンレーが発表したレポートでは、SWFの運用資産総額は2006年末で2兆5000億ドルに達し、ヘッジファンドとプライベート・エクイティ・ファンドの合計額を超えたと推計している。その後も増加している。今や、SWFという妖怪がグローバル資本主義の世界を大手を振って徘徊し始めたのである。この妖怪は世界経済、ひいては日本にとってどのような影響を与えていくのか。

SWFには、中東諸国のように石油や天然ガス等の売却益による外貨建資産、また、アジアの等の貿易黒字拡大による為替レート高騰を防ぐため、為替介入によって蓄積された外貨とに分けれる。「資源型」と「非資源型」である。世界のSWF資産総額のおよそ三分の二が中東を中心とした、例えば、KIA、ADIA等のような資源型SWFである。ただし、テクマセ、GIC等のような非資源型SWFは伸び率が高く、2015年には資源型に肩を並べるとの推測である。
日本では、自国の天然資源を輸出して得た外貨を別会計にしてバランスシートから除外することは、制度上ほとんど不可能である。しかし中東やアジア諸国では可能なのである。したがって、SWFの運用の実際については、いわゆる国のポートフォリオには計上されない。

ファンドの投資は、例えば、KIAが独ダイムラー社といった優良株を長年持ち続けているように「マイノリティ投資」が基本である。ただ、近年は企業の大株主となる「マジョリティ投資」を世界的に積極的に展開しているのが目につくように変化している。
投資手法の一つとして、こんな動きもある。今年2月、アメリカの投資会社JCFが新たに設立するファンドにCIC(中国系SWF)が最高で40億ドルを出資することとした。JCFは業績不振の金融機関への投資で名を馳せ、日本でも昨年から新生銀行の筆頭株主となっている。つまり、CICはJCFが設立するファンドに出資することで、日本を含む外国の金融機関への間接的なつくりつつある。

高いリターンを期待して資産運用に取り組まねばならない事情はそれぞれにある。
中東産油国は、今世紀に入ってからの原油価格高騰で過去最大の利益を享受しているが、原油価格が1バレル100ドル近くの高値で安定する可能性は、これまでの価格推移や実需の伸び悩みからみても、あまりない。それに中東産油国は資源売却益がGDPのかなりの部分を占めており、原油価格の変動が国の財政を揺るがしかねない状況にある。その「備え」のために、輸出収入を運用し、余剰を作らねばならない。そのためのSWFという位置づけなのだ。その一方で、オイルマネーで潤ったことあり、基本的に少なかった中東産油国の人口が爆発的に増えていることもSWFの活動と関わりがある。人口が増えれば、本来ならば内需や生産力が上がり、経済成長がもたらされる。しかし、産油国はその天然資源のみで経済が保たれていて、新たな産業を育成しにくい風土にある。その場合、人口増は1人あたりの取り分の減少につながる。その取り分減少を補うためにも積極的な資産運用が望まれているのだ。
一方、中国をはじめとしたアジアの国々にも特有の理由がある。
そのキーワードは「高齢化」である。ノルウエーのSWFが政府年金ファンド(GPFN)であり、高齢化に備えて堅実な運用を行っているが、日本を含めてアジア諸国の人口の高齢化はそれに輪をかけて深刻だ。年金制度の重要性が増していくばかりである。中国の年金制度は現状でも既に深刻な状態にある。都市部では強制加入のはずの基本養老保険の加入者が総人口の15%にすぎない。CICの総経理である高西慶しの前職は中国の全国社会保険基金の副理事長である。このことからもCICの主たる目的の一つが十分に伺える。

それからもうひとつ、SWFを運用する国々の共通している目標があると思える。
中国、UAE,シンガポール・・・・これらの国々はみな、自国通貨を基軸通貨に近い状態にまで押し上げ、自国にその地域における国際金融センターをつくることを狙っている。天然資源はいつかは枯渇するし、アジアの成長を支えた人口も高齢化していく。ため込んだ資金を放蕩していくのではなく、仮に資源がなくなり、あるいは超高齢化社会が到来したとしても富を享受しつづけるためには、自国をグローバルな資本の流れのハブにすることで、自国の通貨自体の購買力を高めていくことが望まれる。
現在、中東ではドバイが、そしてアジアではシンガポールが、それぞれ国際金融センターの地位を獲得しようとしている。ライバルはそれぞれ、カタール、そして香港と上海である。そうした国のSWFが外国の証券取引所や大手金融機関の株式に熱心なのは、純投資をいうよりは、国際金融センターとしての地位を確立するための戦略的投資だと考えているからである。

決して、巨大な金額を投資したことによって、そのSWFの属する国の政府の政治力拡大に利用したり、投資先の国や企業の判断を歪めたりするようなことを目的にしているわけではない。

翻って、日本としてもこのような世界的なグローバル資本主義ともいえる真っ只中で、どう対処していくべきなのかを良く考えていく必要に迫られているのは疑いのないものである。

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